第七章 「僕は医者か犯罪者か」

Down Town
 日本と英国の文化の違いは幾つか書き綴ってきましたが、改めて比較検討してみると、それは天文学的とは言わないまでも、果てしなくあります。(国が違うから当たり前ですが)そしてその全てを僕は説明したくても出来ませんし、違って然るべきものです。

 ですが、ものすごく些細で身近な違いに僕は驚かされました。それは僕がロンドンのオックスフォードストリートを歩いてるときのことです。

 ロンドンに到着して数日が経過したある日、僕はこの数日で感じたことのない雰囲気というか、感覚をおぼえました。なにかこう、居心地の悪い感覚です。すれ違うイギリス人の大半が僕を見て驚いた表情をする。子供ともなると無遠慮に「ワオ!」とまで言い放つ有様です。

 別に芸人ではあるけども面白い顔しているわけでもない。どこにでも出没する極東の黄色い猿です。とりわけ変なファッションをしているつもりもない。どちらかといえば、街並に馴染むような格好をしているつもりでした。

 しばらく考えを巡らせてみたものの、なにひとつ見当が付かない。普段、自信過剰なだけに、僕はかなり落ち込んで「なにがクールブリタニアだ!冷たいだけじゃないか!」とブツブツ独り言をいっていました。怒ったり落ち込んだり、実に表情豊かな僕。

 そして、なんとなくショーウインドーに映る自分を見たとき、全ての謎は簡単に解けました。ホームズが子供の悪知恵を見抜くかのように簡単に。答えはどうやら「白い風邪用マスク」のようでした。なるほどどうしてロンドンに来てからは誰一人マスクを着けている人を見掛けなかったわけだ!日本じゃ当たり前に着けるマスクも、この国ではせいぜい医者か顔を隠そうと扮装する犯罪者くらいのようでした。もちろん、それが判明してからはマスクを外して歩きました...と言いたいところですが、少し(奇異な視線にせよ)注目されるのが嫌いではない僕はマスクを着け続けました。

 ロンドンの皆様、一月上旬の数日間、オックスフォードフトリートを徘徊していたマスク男はこの僕です。驚いた方どうもすみませんでした。

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